石原研究室はエネルギーと環境に寄与できる技術への
触媒の開発と応用を行っています

機能性無機材料 

(1) 新規酸素イオン伝導体の開発

燃料電池の構成材料の一つである電解質は、電子やホール伝導よりもはるかに大きな酸素イオン伝導を有する必要があります。現在、燃料電池電解質の主流はZr0.87Y0.13O2ですが、これで燃料電池を組み立てると1000℃の作動が必要です。本研究室で開発したLa0.8Sr0.2Ga0.9Mg0.1O3(LSGM)では、600℃での発電が可能となりました。この材料の発見は100年ぶりの新規材料の発見であり、世界的に注目される成果となっています。現在は、ペロブスカイト型酸化物にこだわらず、新しい組成の高酸素イオン伝導体の開発を行っています。高酸素イオン伝導体は固体中をO2-だけが移動し,電子は移動しないので、自動車用酸素センサにも応用できると考えられています。
(2)低温作動型酸化物固体電解質型燃料電池の開発

燃料電池はエネルギー変換効率が高く、CO2排出量の少ない発電方式として注目されています。本研究室では燃料電池の中でも、最も安定性が高く、燃料の制限が少ない固体酸化物型燃料電池(SOFC)の開発を行っています。近年本研究室で開発したLSGMを用いることによってSOFCを低温で作動させることに成功しました。現在はより低温で作動可能にするために、LSGMの薄膜化や高活性な電極触媒の開発を行っています。この研究はTOTO、関西電力と共同で、実用セルの開発を行っており、現在1kWの発電モジュールの開発に成功しています。
(3)酸化物アノードの開発と高信頼性SOFCの開発

SOFCは水素を燃料として発電でき、発電時にCO2の排出量が少ないことから、地球温暖化対策に有効であると期待されています。本研究室では、SOFCの従来のNi系アノードに比べ出力は劣りますが、長期間の使用による酸化や硫黄被毒に対して圧倒的な耐久性を示す酸化物アノードを検討しています。その結果、CeO2系酸化物とLaFeO3系酸化物の混合アノードを見出しました。都市ガスを直接発電利用できる可能性もあり、大きく期待されています。今後上記の混合アノードの改良、特性を検討しつつ、さらなる新規材料の開発を行っています。
(4)直接エタノール型アルカリ膜燃料電池のための高活性電極触媒の開発
直接エタノール型燃料電池(DEFC)は燃料としてエタノールを用いるため、水素を燃料とする固体高分子型燃料電池(PEFC)と比較すると燃料の安全性と貯蔵の容易さの両面で優位性があり、特にモバイル機器や輸送用機器の動力源として開発が期待されています。一般的なDEFCではNafion膜などの強い酸性の電解質膜が用いられるため、触媒として白金のような耐食性に優れた高価な貴金属しか用いることができません。本研究室では、安価な金属を触媒として用いることができるアルカリ電解質膜を用いたDEFCの電極触媒として、白金系を代替する電極触媒の開発を行っています。

(5)水蒸気電解装置の開発

高温水蒸気電解(Solid Oxide Electrolysis Cell, SOEC)は、排熱を利用することで高効率に水を電気分解して水素が得られることから注目を集めています。本研究室では、高酸素イオン伝導体であるLaGaO3系酸化物を固体電解質に用いることで、高い水素生成速度が得られることを見出しました。現在、水蒸気電解だけではなく、CO2電解も検討しています。CO2を電解して得られるCOは、そのまま燃料電池の燃料として使用することができ、環境調和な技術として期待できます。
(6) 環境検知用ガスセンサの開発(電流検出型COセンサ):

一酸化炭素(CO)ガスは非常に有毒な気体で、一酸化炭素中毒によってしばしば深刻な被害が引き起こされています。そのため、COガスを検出できるセンサが必要とされています。本研究では、酸素イオン伝導体を電解質とした電流検出型COセンサを開発しています。
(7) Liイオン二次電池材料開発

ハイブリット自動車や電気自動車が普及し始め、これまで携帯電話やノート型パソコンに使われているような電池をそのまま大型化するだけでは性能が足りず、二次電池(充電できる電池)の性能アップが必要とされています。本研究室では、正極にレアメタルが使用されている従来のLiイオン電池の欠点を補い、さらに高速充放電に優れた、デュアルカーボン電池の研究を行っています。この電池は正極、負極共に黒鉛を用いることにより、高作動電圧を得ることができます。環境にやさしく、低コスト化にも期待でき、発火の危険性もこれまでのLiイオン電池より小さく非常に注目されています。しかし、繰り返し特性に課題があるため、本研究室では、正極に対する事前処理の効果を検討し、繰り返し充放電特製の向上と容量の向上を目指しています。 また、大きな充放電容量を有するLi2MnO3とLiMO2(M=Mn,Ni,Co)の固溶体系正極材料に着目し、劣化機構の検討や正極中におけるLiイオン拡散性評価の新規手法の探索を行っています。
(8) Li-空気二次電池材料開発

現在、電気自動車の動力源として高容量電池の開発が望まれています。Li-空気二次電池は空気中の酸素を正極活物質、Liを負極活物質として用いており、大きな理論容量を有していることからLiイオン電池に代わる次世代型電池として注目されています。しかし、現在ではサイクルの劣化が大きな課題となっています。本研究室ではこの電池の実用化に向けて電解液に有機溶媒、正極材料にメソポーラス型MnO2を用いて容量、サイクル特性について検討し、負極材料のLiの充放電後の劣化原因についても検討を行っています。 また、リチウムのデンドライト現象や電解質の揮発を抑えることができるゲル電解質についても、本研究室ではカーボネート系溶媒のゲル電解質の作製及びLi-空気電池への応用に向けて検討しています。
(9) 酸素イオン伝導性固体電解質を用いる新型金属-空気二次電池材料開発

金属-空気電池は、正極の重量を無視でき、負極に重量を割けるため、高エネルギー密度な二次電池として注目されています。従来の溶液系電解液を用いた金属-空気電池では、電解液の金属との反応や分解により可逆性が乏しいことが課題でした。本研究室では、新たに、化学的に安定な酸素イオン伝導体を電解質に用いて金属のレドックスを行う金属-空気二次電池を開発しました。負極の活物質としてFeを用いた電池では、理論値の97%の充放電容量を得ることができ、安定に充放電を繰り返せることも確認しています。現在、500℃での作動に成功していますが、これを300℃程度まで低減することを目指しています。また、負極に理論エネルギー密度が非常に大きいMgを用いたMg-空気電池も検討しています。
(10) 新規水素吸蔵材料の開発

水素は次世代のエネルギー媒体として期待されており、現在、水素を貯蔵、輸送する技術開発が求められています。しかし、水素は気体で、貯蔵に適さないことから、水素の吸蔵可能な材料の開発が望まれています。本研究室では、水素吸蔵密度が大きく、資源量が豊富にある安価なMgに注目しました。しかし、Mgは反応速度が遅く、高温でなければ反応しないという欠点があります。この欠点を改善するために、比較的低温で水素を吸蔵放出し、水素吸蔵量を増加できるような、表面触媒と様々な元素の添加物について検討を行っています。



触媒化学

(11) PM酸化触媒の開発

ディーゼルエンジンはガソリンエンジンと比較して熱効率に優れ、CO2の排出量が少なく、地球温暖化対策に有望な内燃機関として注目を集めています。しかし、パティキュレートマター(PM)と呼ばれる炭素質の微粒子を排出し、環境や人体への悪影響が懸念されます。そこで、本研究室ではこのPMを低温で酸化除去する触媒開発を行ています。具体的にはFe系の酸化物を用いて触媒材料を検討しており、Feの還元によってPMの酸化を行っています。
(12) NOx分解触媒の開発

自動車などの内燃機関から排出される排ガスには、NOx、PM、CO2、SOxなど大気汚染物質が含まれています。NOx(窒素酸化物)については有効な除去技術が確立しておらず、多くの対策が検討されています。1500℃以上の燃焼反応により空気中の窒素と酸素が結合して発生するNOxは、高温にさらされる限り必ず発生するため、排ガスから後処理するしかありません。本研究室では、Y2O3を母体とする希土類酸化物にNiやBaを添加した触媒が850℃でNOの直接分解(2NO→N2+O2)反応をほぼ100%進めることを見出し、実排ガス中でもNO分解活性を維持する触媒の開発を行っています。


(13) 水素分離膜反応器を用いるC3H8水蒸気改質反応の触媒開発

現在、水素エネルギー源とする環境調和型社会の到来が期待されています。このような水素社会の実現のためには、水素の効率的な製造技術が必要になります。本研究室では、C3H8を用いた触媒による水蒸気改質反応(C3H8+3H2O→3CO+7H2)に着目し、低温でより多くの水素生成可能な触媒の開発を行っています。 また、生成した水素を分離するための、水素分離膜についても検討を行っています。
(14) H2の直接酸化によるH2O2合成のための高性能触媒開発

H2O2は分解生成物が水と酸素であるため、環境負荷の小さい酸化剤として工業的な利用が増加しています。しかし、現在のH2O2の合成プロセスは複雑なため、高価な酸化剤となっています。本研究室では、H2を直接酸化する、H2O2の直接合成プロセスに着目し、Pd-Au/TiO2触媒及びPd-Auナノコロイドを用いたH2O2合成触媒の開発を行っています。

(15) 光触媒の開発:人工光合成の達成

光触媒とは、光エネルギーを用いて水を水素と酸素に分解する半導体材料です。環境に配慮した究極の水素製造方法であるが、より高活性な材料を見出す必要があります。

●色素修飾光触媒の開発

これまでの研究では紫外光を利用した研究が主でしたが、紫外光は太陽光の中の約5〜6%しか存在しません。そこで本研究室では紫外光と可視光の両方を利用した水素製造法に着目しました。触媒として金属錯体色素(Cr:テトラフェニルポルフィリン)で修飾した色素修飾触媒を用いており、この触媒では、水素および酸素の生成速度が飛躍的に増加することがわかってきました。
この色素修飾触媒にIS法と光触媒反応という二つの反応を組み合わせることで、太陽光を利用し、より効率よく水を分解する『熱-光化学水素製造プロセス』の開発を目指しています。また、活性が向上した触媒のメカニズムについての検討も行っています。



研究の詳細な説明はこちら